沈寿官の玄武千代香(じょか) [俳句]
沈寿官の 玄武千代香(じょか)にて 芋正中
かつて、鹿児島の沈寿官窯を訪ねた時、良いなと思いつつも、いったん諦めたのだが、帰京してどうしても欲しくなった。
鹿児島勤務の同僚に依頼して購入したのが、このじょか(千代香とも書く)なる酒器である。
いったいあの時の物への執着は何だったのか、今となると恥ずかしくも呆れるばかりだ。
知られているように、彼の地では酒といえば芋焼酎のことであり、日本酒、清酒のことではない。
薩摩焼酎は、平べったい薩摩黒じょかで温めて呑むのが一般的である。入手した酒器も同じように使う物だろう。亀の形をしていて、長い尾が把手になっている。
勝手に玄武千代香(じょか)と詠んだが、調べると四神の玄武は、脚の長い亀に蛇が巻き付いた形で描かれることが多いようだ。発見されたばかりの頃、訪ねた高松塚古墳の壁画もそうだったように思う。
つまり、玄武は蛇と亀が合体したような動物なのである。尾が蛇となっている場合もあるというが、買ったじょかの玄武の尾は蛇ではなく亀の尾である。
「正中」とは明治時代の製法(どんぶり仕込み)でつくった芋焼酎で、薩摩酒造の「さつま白波」の兄弟ブランドだったように記憶している。
これこそ本物、焼酎の中の焼酎という自負が込められているのか。何度か飲んだけれど、その旨さは分からなかった。
最近、さつま白波より黒や赤、白霧島などをカボス割りで飲むことが多い。以前大分では、麦焼酎をよく飲んだ。まぁ、酒なら何でも良いということか。
亀足ならぬ蛇足。
四神、四象は中国から朝鮮半島を経て渡来したものであるが、日本文学の中などに随分浸透している。
余り正確ではないかもしれないが、備忘のために整理すると以下の通り。ただ青龍-青年と朱雀-壮年は逆のような気がするのだが。
四象と四神 (黄竜又は麒麟を入れて五神とすることもあるとか。)
東 青龍は青春 青年 青龍偃月刀(関羽を象徴する刀)など
西 白虎は白秋 幼年 白虎隊など(会津藩少年隊)など
南 朱雀は朱夏、壮年 朱雀門(平城京)など
北 玄武は玄冬、老年 玄武洞(兵庫県にある柱状節理の洞)など
江戸時代、会津藩では武家男子を中心に年齢別に50歳以上の玄武隊、36歳から49歳までの青龍隊、18歳から35歳までの朱雀隊、17歳以下の白虎隊と四神の名前を部隊名とし軍を構成していたという。
幕末の戊辰戦争における会津鶴ヶ城白虎隊自刃の悲劇はつとに名高い。
当時からすれば、たぶん玄武隊は、相当な古参兵だろうと想像する。
俳句で冬の季語である「冬帝」・「玄帝」と同義の玄武は冬(北・玄)の象徴であるが、玄武自体は季語ではないようだ。なお、冬のことを「玄冬」ともいい季語である。
青春、白秋も季語ではないそうだ。
朱夏だけは陰陽五行説で赤を夏に配するところから来た夏の異称で、夏を司つかさどる神である炎帝とともに夏の季語。
ややこしい。
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